【Scientific reports】重炭酸イオンの睡眠、ストレス、免疫の改善効果
重炭酸温浴が睡眠、精神的ストレス、免疫機能に及ぼす影響を検討し、それら全てに対し改善効果が認められたことが報告されました。
~重炭酸温浴の基礎的メカニズムの解明に続き、ヒトでの臨床効果について実証~
元鶴見大学教授で株式会社クレインサイエンス代表の斎藤一郎博士らは、これまでに中性重炭酸イオン水(NBIW)入浴が重炭酸イオンによる血流促進作用を有することを証明し、その基礎的メカニズムについて2021年のScientific reports誌にて報告しました。
その後、NBIW入浴の有効性を検討するためヒトにおけるさらなる臨床研究を重ね、オープンラベルランダム化クロスオーバー試験により、NBIW入浴が精神的ストレス、睡眠、免疫機能に及ぼす影響を検討したところ好成績を収め、その研究結果が再びScientific reports に掲載される運びとなりました。
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原文Scientific Reports(英語)はこちらから
先行研究(Scientific reports 2021)のあらまし
~中性重炭酸イオン水入浴の効果~
2021年のScientific reportsでは、培養細胞や実験動物を用いて、NBIW中の重炭酸イオンが血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の産生を促進し、NO分泌を介して血流を亢進することを報告しました。この重炭酸イオンが入浴中に経皮的に吸収され、体温の上昇とともに冷えや睡眠の質が改善される可能性が示されました。
本研究(Scientific reports 2024)の結果
~オープンラベルランダム化クロスオーバー試験における中性重炭酸イオン水浴のメリットの評価~
今回研究グループは、ヒトにおけるさらなる臨床研究として、NBIW入浴が精神的ストレス、睡眠、および免疫機能に及ぼす影響を検討するため、オープンラベルランダム化クロスオーバー試験を行いました。
日常的にストレスを感じている30~60才の男女、計25名について、NBIW入浴群と通常の入浴群に無作為に割り付け、それぞれの群で4週間の入浴を行った後、1週間のウォッシュアウト期間を設け、入浴の種類を入れ替えて再び4週間の入浴を実施しました。
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①精神的ストレス:
職業性ストレス簡易調査票(BJSQ:Brief Job Stress Questionnaire)とProfile of Mood States Second Edition(POMS2)により入浴介入前後の精神的ストレスを比較したところ、多くの項目で通常の入浴よりもNBIW入浴の方が改善幅が大きく、NBIW入浴がよりストレスに対する改善作用があると評価されました。 -
②睡眠の質:
ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(PSQI-J:Pittsburgh Sleep Quality Index Japanese version)により、通常の入浴よりもNBIW入浴で睡眠の質に関して有意な改善を認めました。また、アクチグラフでも通常の入浴よりもNBIW入浴で睡眠潜時(ベッドに入ってから入眠までに要する時間:寝つきの良さを反映)と離床潜時(目覚めてからベッドを離れるまでに要する時間:寝覚めの良さを反映)に関して有意な改善を示し、NBIW入浴がよりよい睡眠に関して有効であることが実証されました。 -
③免疫機能:
ストレスに反応して数と機能が変動するCD8+T細胞や、PTSD(心的外傷後ストレス)によっても増加するCD16+CD56-細胞は、NBIW入浴に比べて通常入浴で増加率が大きく、NBIW入浴によるストレス軽減作用が免疫にも反映されることが示唆されました。抗腫瘍免疫において重要な役割を果たすメモリーT細胞では、NBIW入浴によりその割合が増加しました。また、好中球貪食能とNK細胞活性にみる自然免疫は、NBIW入浴、通常入浴ともに増加しましたが、4週後の好中球貪食能はNBIW入浴の方がより高い傾向を示し、免疫機能に好影響を与えることが推察されました。
以上の知見から、毎日のNBIW入浴が精神的ストレス、睡眠の質、免疫機能を改善し、日常生活でストレスに晒されている人々にポジティブな健康効果をもたらす可能性が示唆されました。
新興・再興感染症や気候変動などの自然の猛威に、身体的ストレスのみならず精神的なストレスも高まる現代を生きる私たちにとって、“入浴”のような日常生活の中に取り入れられる方法でストレス軽減の対策を持つことは、社会的にも意義が大きいと考えます。