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熱中症を防ぐ鍵は「冷え」対策:重炭酸温浴で元気に夏を乗り切ろう!
近年の急な酷暑の影響で、熱中症の発症件数が増えています。高齢者や子供だけでなく、働き盛りの世代も熱中症に対する十分な対策が必要です。
同じ暑さの環境でも熱中症になる人とならない人がいるのは、特定の遺伝子の変異が原因の一つとされています(※1)。
※1 Endogenous genetic risk factor for serious heatstroke: the thermolabile phenotype of carnitine palmitoyltransferase II variant. Acute Med Surg. 2018
〇遺伝子変異と熱中症リスク
ミトコンドリアでエネルギー(ATP)を生成する際に、ATPの材料となる脂肪酸をミトコンドリアで利用するための酵素に変異がある人は、体温が40℃以上になるとこの酵素が不安定になり、働かなくなります。特に脂肪酸の利用が多い血管内皮細胞にダメージが及び、意識障害やけいれん、多臓器不全などの重篤な熱中症を起こしやすいとされています。この遺伝子変異を持つ日本人は13.9~19.8%と報告されています。
この遺伝子変異は生まれつきの体質なので後天的に変えることはできませんが、体温が40℃以上にならないように工夫したり、タンパク質の熱変性を未然に防ぐことで、熱中症が重篤にならないようにすることはできるのです。
<熱中症には冷えと血流不足もかかわっている?>
意外に思うかもしれませんが、熱中症の原因には「冷え」と「血流不足」も深く関係しています。どういうことでしょうか?
まず「冷え」
体が普段から冷えた状態にあると、いざ外から過度の熱を受けたときに汗腺の機能が衰えて放熱できず、体温調節がうまくいかなくなります。特に、手足や下半身が冷えていると、暑さに対する体の反応が遅れ、体温が急に上がってしまうことがあります。
そして「血流不足」
血液が体の隅々までしっかり流れていれば、熱を体全体に分散させやすくなります。逆に、血流が悪いと熱が体の一部にこもりやすくなり、脳血流が不足するなどして、熱中症を発症しやすくなります。
<熱中症の重症化を防ぐためにはどうする?>
血流を確保して冷えを解消すること、タンパク質の熱変性を防ぐことが、熱中症が重篤になるのを防ぐ鍵です。
それには、ふだんから体を温めることを繰り返して、熱を運ぶ末梢血管を開きやすくし、体の中のタンパク質を熱から守るヒートショックプロテイン(HSP)の合成を高めておくことです。
そのために、何か特別なことをやる必要はありません。自宅のお風呂を利用しましょう。
家庭用の重炭酸イオン入浴剤を使った重炭酸温浴は、体温と同じぬるい湯温でも(なんなら体温以下でも)高い血管拡張と血流亢進をもたらすことが知られており(※2)、熱中症対策のトレーニング法として最適です。
※2 Yamazaki T., Ushikoshi-Nakayama R., Shakya, S., et al. The effects of bathing in neutral bicarbonate ion water. Scientific Reports 11, 21789 (2021).
適切な水分補給:脱水を防ぐために、十二分な水分補給が必要です。水分補給は、糖分と電解質を含む飲料が最適です。
発汗トレーニング:
汗をかく練習が必要です。陶板浴や溶岩浴の遠赤外線で発汗トレーニングを行い、汗腺の働きを活性化させます。
<重炭酸温浴による温熱トレーニング>
重炭酸温浴は、血管拡張効果や血流促進効果が高く、お湯の温熱の力を借りずに重炭酸イオンの作用で血管拡張物質・一酸化窒素(NO)の分泌を高めて血管を拡げ、体温を効率的に上げることができます。
以下に、重炭酸温浴を用いた暑熱順化トレーニングのポイントを紹介します。
1.発汗トレーニング
重炭酸温浴に含まれる重炭酸イオンの力で血管を開き、汗腺を開いて、汗をかく練習を行います。発汗には精神性の発汗と温熱性の発汗がありますが、温熱性の汗腺を活性化するには、ぬるめのお風呂に長時間(30分前後)浸かることが重要です。必要な時に必要量の汗がかけるようになると、放熱能力が向上します。
2.深部体温を上げるトレーニング
重炭酸温浴の全身浴を用いて、深部体温を上げるトレーニングを繰り返します。これにより、体の深部温度が高まったときに平熱に戻す能力が強化されます。深部体温を上げるには、入浴から10分は手足を湯船から出さないことが肝心です。10分経過して暑くなってきたら、湯船から両手を出すと楽です。
3.ヒートショックプロテイン(HSP)の合成
HSPは、生まれつきわたしたちに備わった体を守る仕組みです。あらかじめ体温を上げて体内にHSPを増やしておくことで、次にやって来る大きなストレス(熱など)からタンパク質や遺伝子を守ることができます。
4.上手な水分摂取
体液より浸透圧が低い水を飲むことで水分補給を行いますが、数%の糖分を含む飲料の方が胃から小腸への移行が速く吸収が高まるとともに、血漿量(血液中の液体成分の量)を保つ役割を果たします。また、汗で失われる電解質を含む飲料を選びましょう。温浴の前・中・後で500mL以上の水分を摂取しましょう。
5.脳を冷やす
発汗トレーニングや深部温熱トレーニング中、暑くなってきたら、首元や鼻周りを冷やして脳へ向かう血流を冷やすと楽にトレーニングが行えます。深部体温が上がっても頭部が冷えていると、一般的に疲労感を感じにくくなります。
重炭酸温浴を取り入れた温熱トレーニングは、熱中症を防ぐための有効な手段です。
今年の急激な暑さには、しっかりとした準備とトレーニングが求められます。
専用のシャワーヘッドに重炭酸イオン入浴剤の錠剤をセットして、ボディソープやシャンプーいらずのオールインワン・シャワーとして使うこともできます。1日に何度もシャワーを浴びたい季節には、皮脂バリアを維持する重炭酸シャワーが推奨されます。
未来の暑さに備えて、重炭酸温浴を日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。