【基礎医学研究から考える】
重炭酸温浴法の有効性

【基礎医学研究から考える】重炭酸温浴法の有効性

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鶴見大学病理学講座教授
斎藤一郎

■株式会社クレインサイエンス 代表
■歯科基礎医学会ライオン学術賞
■日本病理学会賞受賞

強いストレスを感じる就労者の割合の推移について

国民のおよそ半数が「日常生活での悩みやストレスがある」と感じる現代日本ですが、特に就労世代はストレス傾向が顕著で深刻な社会問題となっています。厚労省では労働安全衛生法を改正し、平成27年より会社等の事業所でのストレスチェックを義務化しましたが、就労者のストレスを改善する対策は進んでいないのが現状です。
 人間はストレスを感じると交感神経が緊張することで血管が収縮し血液の循環障害が起こることが知られており、このことで体温や免疫力が低下し、様々な疾患の原因となります。一方、血管で産生されるNO(一酸化窒素)という物質は血管拡張による血行促進作用を持つことが示され、それを発見したルイ・イグナロ氏らは、’98年のノーベル生理学・医学賞を授与されました(1)。最近では、精神的ストレスによる血管の機能低下はこのNO(一酸化窒素)の産生を低下させ動脈硬化や心不全など心血管障害のリスクを高めるといわれています。

NO産性能と心血管疾患のリスク

日本人は古くより温泉で疲れやストレスを癒してきましたが、中でも血行促進効果が高いとされているのはドイツのバート・ノイエンアールや大分県竹田市の長湯温泉に代表される天然炭酸泉です。炭酸温浴にはNO依存性に血管拡張と血管新生をもたらす効果が明らかとされていますが(2)、天然炭酸泉はpH中性域で炭酸は重炭酸イオンとして高濃度に溶存していることから、炭酸泉での血行促進作用の主体はこの重炭酸イオンにあると考えられています。重炭酸イオンは免疫細胞にNO産生を促すことが報告され(3)、血管に対してはNOを介した血管拡張による血行促進効果が想定されています。
 家庭用重炭酸タブレットは、重曹とクエン酸を特許技術により浴水中で反応させることにより高濃度の重炭酸イオンを浴水中に溶存させるので、高い血行促進効果を得ることができると期待されています。
 家庭用重炭酸タブレットのもう一つの成分クエン酸は、重曹との反応の結果、浴水中ではクエン酸ナトリウムとして溶存しますが、このクエン酸ナトリウムは肌のきめを整え毛穴を引きしめる作用があり、刺激やアレルギーリスクも少ないために化粧品だけでなく食品添加物としても広く利用される安全性の高い物質です。
 このことから、家庭用重炭酸タブレットは、重曹とクエン酸により多くの効果が期待できる優れた入浴剤といえます。
1(Nature 1983; 306) 2(Circulation 2005; 111) 3(Nitric Oxide 2018; 79)

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